Kyoto Nature Hiking -京都の自然、ハイキング情報-

京都の自然やハイキング情報について、京都市在住の森林インストラクターが書くブログです。3児の父。親子で山も歩いています。年に何度か日本アルプスも。

「ナラ枯れ」(カシノナガキクイムシの被害)について

8/2の報道ステーション
8/4の夕方のニュース2局で
放送されたそうですね。
京都東山の「ナラ枯れ」。


8/4 岡崎天王町交差点より
茶色く変色した木々が
痛々しい東山。
左上は大文字の火床。

ご存知の方も多いと思いますが、
カシノナガキクイムシという
体長5mmほどの小さな甲虫が木を枯らす
菌を運んで、京都の北部ではミズナラを、
南部ではツブラジイやクヌギ、コナラなど
ブナ科の木々が被害にあっています。


枯れるのは大木が中心です。
大きな木の幹にカシノナガキクイムシ(以下カシナガ)が
大量に入り込んで、中で交尾・産卵をします。
メスの後頭部にはいわゆる「ナラ枯れ菌」がついており、
その菌が木の内部に蔓延して、水を吸い上げることが
できなくなって枯れてしまいます。


報道された通り、京都の東山もその被害を受け、
冬でもないのに葉が茶色くなって枯れた木々が
とても目立つようになってきました。
先週の土曜日(7/31)に車で白川通りを走っていて
びっくりしました。
とうとう東山まで南下してきたんですね。


原因は諸説ありますが、人間が山で
木を伐らなくなり、カシナガが生育しやすい
大木が増えていることが主因で、
猛暑(気温)や温暖化は関係ないようです。


問題は、木が枯れることではありません。
大木が枯れるのは時間の問題だからです。
特にツブラジイを中心とする東山の森では、
枯れた後にスタンバイしている木々が
少ないことや、あったとしてもソヨゴなど
ごく限られた樹種になってしまうことが問題です。


枯れた木が倒れるまでには数年かかりますが、
その間に枯れた木の下でゆっくりと成長していた
木々がようやく太陽光を享受し、
徐々に樹冠が葉でふさがっていきます。
そして、地面の保水力は継承され、地すべりや
土砂崩れなどが起きにくくなります。


ところが、東山辺りではツブラジイがほぼ
樹冠を独占し、昼間でもうっそうとした
暗い森になっていることで、下層植生が
あまり発達していません。
つまり、地面にあるのは落ち葉だけで、
上の大木が枯れた後に樹冠を占めるべき
木々が育っていないのです。


そこで急に光が地面まで届いた枯れ木の周りでは、
新しい木々が芽生えてくるのですが、
その大切な新しい芽をシカが食べて尽くして
しまわないか心配です。東山にはシカは少ないようですが。


東山以外では、このままではシカが
食べない木だけが残り、
近年のゲリラ豪雨や集中豪雨が起こると
簡単に土砂崩れしてしまうのではないかと
懸念されます。


今こそ森林整備に雇用対策を!
昨年(2009年)の雇用対策で森林整備に
一時的に雇用されているのを見ましたが、
継続性はなかったように思います。
今こそ、「ナラ枯れ」で荒れた森と
手入れの行き届いていない人工林で
森林整備のための恒久的な雇用対策が
必要なのではないでしょうか。


一時的に誰でも雇用するというのではなく、
身体能力など適正を見極めた上で採用し、
報酬も助成する。
今のような低い賃金では危険な林業職に
就く若者はいないでしょう。
暴論だとは思いますが、森林を整備するには
お金がかかること、長い目で見るとその
森林整備が後追いの対策よりはるかに
少ない金額で行なえることを
周知徹底するしかないと思います。


土砂崩れが発生した場所を整備し、
壊れた住宅の再建を助成し・・・
などの後追いの対策にかかる費用を
前もって森林整備に充てるのです。
その方がはるかに安上がりなはずです。


ナラ枯れ」が拡大する京都の東山を見て、
森林と人との関わりを真剣に見直す必要があると
多くの方に実感していただきたいです。